作者は、静止した風景を描くことより、動きのある風景を捉えるのが得意だ。この句でも、「湧く」という動詞を畳み掛ける使い方によって、自然界のエモーショナルな現象をしっかりと写生の眼差しで描いている。地上にある湧き水に対比するものは、かたちを大きくしたり小さく
アーカイブ:2019/05
星空の闇の余呉湖や榾の宿 前田長徳
星が輝く夜空だといえば、明るい夜空を想像しがちだが、考えてみれば、星しか光るものがないということは、本当は暗いのである。そんな星空の闇の下に広がる余呉湖。作者はそんな余呉湖に会いたくて、近くに宿をとったのであろう。宿は明るいし、暖かい。言ってみれば「榾木
鐘の音のほかは一山霞みけり 鳥井保和
この句の焦点は「一」(いち)の使い方にある。全体を捉えて一といわれることはない。全体は十であったり百であったりする。その中の一なのである。つまり、その全体、の中の一点のみがクローズアップされることによって、面白くなるのである。もちろん、百あれば小さな違いは
とろろ飯喰ひ合つてゐる春隣 和田耕三郎
この句のとろろ飯は、けっして高級な店でいただくそれではなく、我が家か一般的な店で料理した、ほんとうに素朴なとろろ飯であろう。「喰ひ合つてゐる」というから、複数の人たちが一緒に(たぶん、笑いあいながら)食べているのであろう。そんな和気藹々とした情景が見えるよ
ほつほつと年金暮らし草珊瑚 山元志津香
七十を過ぎれば、大方の人は年金暮らしであるが、年金のほかにプラスαの収入源を持っている人も、ちらほらいる。けれども、そういうひとは自らを「年金暮らし」とは言わないから、この句の作者かモデルの第三者は、しんじつ年金一本で暮らしておられるのであろうか。「ほつ