隠岐島は島根県の離れ小島のようなところがある。歴史的に見ても、隠岐島は後醍醐天皇を幽閉したてまつった辺鄙なところということになっている。
もちろん、今は、そこに生活する人はたくさんいるのだろうが、人口密度からいえば、本土の比ではない。むしろ、隠岐島は牛の方が多いかもしれない。
そんな島に、雷鳴が轟き渡る。雷鳴は、その稲光や轟きに人間は萎縮するが、驚きもしないものがいるという。それが、牛なのだというのだ。
牛は、一見、鈍感そうに見える。が、案外神経質な生き物である。 
だが、雷鳴ぐらいではたぢろがない。
人間だとそうはいかない。
臆病な人間と、逆にたくましく生きている牛との交流が、隠岐島には今も息づいているのかもしれない。
「馬酔木」2020.3