作者は、最初のトーキー映画を監督した庶民派の名匠。1902年生まれ、1981年に亡くなられている。久保田万太郎の「春燈」に所属して俳句を作っていたことでも知られている。
映像の焦点の絞り方や、二句一章のモンタージュ的な手法など、俳句と共通するところが映画制作にはけっこうあるのかもしれない。
それはさておき、五所さんの掲句である。
上五「海の日が」は、もちろん海の上の太陽を指す。それが「眠たさ誘う」というのだから、とろりと溶けたような気だるい陽光が、陽射しや暖かさを振りまいているのであろう。
足元には、季節を教えてくれるように可憐な「冬すみれ」が、見晴らしのよい場所にたくさん咲いているという。
すみれはふつう春に咲く花だが、冬に咲いているというから、気候温暖な地域が想像される。太平洋側の、伊豆あたりで
詠まれた句かと思う。
太陽(という巨大なもの・宇宙的なもの)と冬すみれ(という微小なもの=ミクロコスモス)の取り合わせが面白いのである。
大と小が互いに呼応しあって、そこに自然の調和というものが生まれる。
冬ながら、春めいた温暖さにこころ癒される作者がいるし、読者もまた同じような気持ちにさせられる句である。