いよいよ関東地方も、梅雨入りのカウントダウンがはじまった。この句の作者、中川宋淵(そうえん)は明治、大正、昭和を生きた稀代の禅僧。東京帝国大学在学中に突如出家。同時に飯田蛇笏に入門し、その激賞を受けた。いわゆる俳禅一如の詩境から生み出される句品は当代独歩の
アーカイブ:2020/05
パンデミックひとかたまりの母子草 柴田多鶴子
パンデミックとは流行と訳される。特定の地域や集団で感染症が短期間に通常より高頻度に多発することである。このたびの新型コロナウイルスは、日本人にも、この凶々しい言葉をはじめて記憶させた。この句、「ひとかたまりの母子草」と、パンデミックからまったく別の風景に
瞬間を揺らぎ合わせるようにしてページの隅に数は降り積む 金原弓起
「東京新聞」2020年5月24日俳壇、東直子選より。ページというから、本がイメージされるだろう。もしかすると、本物の本でなく、ストーリーをもったもの、という暗喩なのかもしれない。瞬間というものは不安定だ。その不安定で不確定な瞬間瞬間の積み重なりは、次第に本のよう
ウエットティッシュ囁く 君はどれだけの人に守られ今があるかと 高橋よしえ
「東京新聞」2020年5月24日俳壇、東直子選より。「コロナ禍で品薄高騰中のウエットティッシュからの戒めという妙味」というのが、この歌に対する東さんの言葉。まるで演劇のセリフがそのまま一首になったようである。「君はどれだけの人に守られ、今があるか知っているか?」
ありふれたスーパー勤めの我なれど今は戦地に赴(おもむ)く心地 岡田広子
「読売新聞」2020年5月25日歌壇、小池光選より。普通ならありふれたスーパーマーケットに勤務している私だが、新型コロナウイルス禍のさなかにある今は、普通ではないのだ。いうまでもなく、食料品、日用品を置くスーパーは毎日たくさんのお客がくる。店内は、どうしても密に