「おい、○○め」は、癌に対する呼びかけ。「酌みかはさうぜ」は一緒に飲もうぜ、とまるで親しい友人に語りかけているようだ。しかし、その相手は癌だ。巧みな擬人化が微苦笑をさそう。逃れたくても逃れられない病苦、喘ぐようなつぶやきである。
そして下五「秋の酒」は季語ながら、諦めの気持ちがにじむ。よく、癌宣告をされた人で、医師から「あれはだめ、これはだめ」といわれたのにもかかわらず、わかっちゃいるけどやめられないと、平然と(あるいは恐る恐る)酒やタバコを飲み続けている人がいる。
どうせ先が短いなら、無理することはない、好きなことしていいだろうという開き直りをいう人もいる。
江國さんといえば、落語研究家にして、洒脱なエッセイストとして知られていた。エッセイの代表作は世界各地を歩き、自作の俳句などをちりばめた紀行集である。永六輔さん、小沢昭一さんたち芸能人、文化人が多数参加していた「東京やなぎ句会」の主要メンバーのお一人。
掲句は、1997年、ご本人が病院で食道癌を宣告をされ、闘病生活に入ってしばらくたったころの作品で、このころ入退院を繰り返したが、その年の8月、惜しまれつつ息をひきとった。享年62だった。