加藤耕子さんの第7句集「空と海」所収の句である。2016年の発行。時間軸と空間軸を大きく捉え過去と現在の融合したような句が増えているように思う。
掲句は「太古」と今が融合して、水というものに遠い歴史の匂いを感じとっているようなところが面白い。
句の題材が泉であるところに、鮮烈な躍動感もあらわれている。
こんな句もある。

空海の灌頂の磯涼あらた
藤村の影や葉月の白障子
上賀茂の梶の葉飾る湯葉づくし
逝きてのち五日の天や月清し

4句目、「逝きてのち」の句の逝きしひととは、作者の兄上を指している。身近な人の死は、句にいささかの沈潜を与えている。死でいえば、この時期飯田龍太の死もあった。
長命であることは、ほかの人の死に多く直面することになり悲しみはいや増すばかりである。
句集「空と海」所収。